研究テーマ

ハイブリッドロケット推進

 本研究室は、西日本の大学として唯一、ハイブリッドロケット(HR)エンジンの学術的な開発環境・燃焼実験設備を有しています(2020年4月時点)。研究の進展に伴い、現在も様々な機能拡張を行っています。世界的にも革新的なトピックをテーマとして設定し、成果を上げています(研究業績を参照)。学生の努力次第で、国内学会発表は勿論、国際学会で口頭発表を行う・筆頭で英語査読付き論文を執筆する・特許申請を行うことなどが可能です。化学ロケット推進の学術研究に本気でチャレンジする、志の高い学生の参加をお待ちしています。

*本研究室は宇宙システム工学科からの配属も可能ですが、機械知能工学科に属しているため、機械知能工学科からの配属が多数を占めていることにご留意ください。

これまでに多くの助成・外部資金を賜り、
● 10MPaまでの高圧酸素ガス供給設備
● エンジン推力計測設備
● 高感度小型カラーハイスピードカメラ(ISO感度16,000,最大540,000fps)
● デュアルヘッドFDM_3Dプリンタ
● 3Dスキャナ
● 小型のフライス盤、旋盤、ボール盤などの工作機械
といった、充実した研究環境を構築するに至っております。

燃焼実験室


制御計測ソフトウェアおよび計測盤


ハイブリッドロケット推進とは

 「ハイブリッドロケット推進」は、燃焼器内に封入した固体燃料に液体もしくは気体の酸化剤を噴射し、固体燃料の近傍に形成される境界層内拡散燃焼で発生した高温のガスをノズルから噴射する形式の化学ロケット推進を指します。


ハイブリッドロケットエンジンと、他の化学ロケット推進との比較.


ハイブリッドロケット推進の利点

1. 非火薬で意図せぬ燃焼が継続しにくい安全な化学ロケット推進

2. 反応物、生成物のいずれも無毒な推進剤が選択できる。

3. 酸化剤流量を制御すれば推力変調や消炎でき、再着火も可能。

 これらの利点によって、従来のロケット推進に比べて意図せぬ着火や爆発のリスクに由来した設計・製造・運用制約を大幅に緩和し、開発~運用までのトータルコストを劇的に下げることができます。また、人間や他の機器を損傷しない安全性が求められる場面での大推力重量比の化学推進系としても、実用化が期待されています。


ハイブリッドロケットの用途

 HRの用途は教育・ホビー用途から宇宙旅行まで様々です。HyperTEKシステムに代表される教育・ホビー用途のモデルロケットシステムが販売されており、日本でも、大学等のアマチュアロケット団体で使用されています。また、いくつかの団体はHRエンジンを独自開発し、打ち上げています。近年ではScaled Composites社がHR エンジンを採用したSpaceShipOneを開発し、民間初の繰り返し弾道有人宇宙飛行に成功、Ansari X Prizeを受賞しました。後継機SpaceShipTwoで弾道宇宙旅行が商業化される予定です。その他、超小型衛星打ち上げロケット、超小型衛星の推進系などにも応用が検討されており、台湾、ドイツ、アメリカなど、世界各地にスタートアップ企業が存在します。


主な実用化課題

1. 従来の固体燃料は燃料後退速度(燃料単位表面積あたり燃料体積流量)が低く、打ち上げロケットとして実用的な機体形状を想定すると、推力重量比が低くなってしまう。

2. 実際の燃焼効率が低い。

3. 燃焼熱は乱流境界層を通過し固体燃料へ輸送されるため、後退速度にバラツキが出る。

4. 推力制御および3.の現象によって燃えずに機体に残る推進剤が生じ、ロケットの増速性能を低下させる。

5. ロケット飛翔中の燃料流量が計測された実例が無い。

 課題1~2は実用化に向けた重要な問題として早くから研究が行われ、酸化剤の噴射方法、固体燃料組成や燃焼室形状の工夫によって大きく改善できることがわかりました。しかし、増速性能要求の厳しい打ち上げロケットに適用する場合や燃料流量を含めた推力制御を行う場合、課題3~5の解決が必要となります。


研究テーマ

本研究室では、課題3~5の解決のため、

・飛翔時の加速度環境を想定したワックス燃料の後退特性・液化燃料流動特性
・多素材3Dプリンタ、導電性樹脂を用いた燃料後退計測機能付き固体燃料の研究
・先進的な推力フィードバック制御技術の研究(2020年度より開始)

を行っています。この他プログラミングを用いたエンジン理論性能や、フライトシミュレーションなどの研究業績もあり、指導が可能です。


飛翔時の加速度環境を想定したワックス燃料の後退特性・液化燃料流動特性


ワックス燃料の横置き・縦置き固体燃料流動可視化実験


液化燃料の転波可視化: 融解燃料液滴の飛散に発展する転波を燃焼場内で初めて可視化した.

 また、室蘭工業大学航空宇宙機システム研究センターのロケットスレッドを利用させて頂き、効果速度環境での燃焼可視化実験を行っています。


燃焼実験可視化システムおよびロケットスレッド加速架台本体


ロケットスレッド上燃焼試験


走行試験


燃料後退計測機能付き固体燃料の研究


左:デュアルヘッド3Dプリンタ(2種の樹脂素材を用いた積層が可能)
右:回路構造を持つ矩形の固体燃料設計
下:回路構造を持つ円筒形状の固体燃料設計


矩形の試作固体燃料(燃焼後).


円筒形状の試作固体燃料(燃焼後)


左:燃料後退面の可視化、中央: 二値化による燃料表面の画像認識
右: 提案する回路構造付き燃料による燃料後退面計測と、(比較対照用)可視化画像認識結果との比較


3Dプリント固体燃料および推力計測システムの機能試験(固体燃料が燃焼器を兼ねている).


円筒形状の3Dプリント固体燃料の燃焼実験(燃焼器あり).


燃料と一体成型した回路構造の電圧の変化と後退速度から計算した理想的な電圧変化の比較.